狼を甘くするためのレシピ〜*
 急いでホテルに帰ればいい。

 一番の問題は“やったのか?”ということだ。

 その記憶はしっかりとあるし、下着もつけていないし裸だが、できることなら夢だと思いたい。
 そう願いつつあたりを見回した。

 なのに目に入るのは脱ぎ散らかしている服と、恐ろしいことに――。

 目に飛び込んできたのは、避妊具が入っているはずの袋。しっかりと封は切られて、中身はない……。

 愕然としながら下着や服を手に取り、大急いで服を着てそっとホテルの部屋を後にした。


 ――オーマイガー!

 エレベーターの中でパカパカと頭を叩きつつ、壁の鏡でチェックする。

 シャワーすら浴びなかった。多分。
 でも、そのお蔭で、老けメイクは微かに残っている。そのことは喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか。


 冒険どころの騒ぎではない、
 これもう――大事件。


 何しろ……。

『抱いてよ。ケイ』

 ――誘ったのは、他ならぬ、私なのだから。
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