狼を甘くするためのレシピ〜*
 這いつくばってじっと耐えた時が、ケイにもあるのだろうか?

 多分あるのだろうと思った。

 だから、彼の言葉は心に響く。

 我ながら影響され過ぎではないかと思うが、ケイと話をしてから、自分の世界が広がった気がしている。

 思うほど世間は複雑じゃない。

 怖くないわけじゃないが、恥をかきながら生きていくことも必要なのだろう。

 失敗して笑われたら、這いつくばって泣く。

 ――その時は、思い切り泣こう。

 客が途絶えたのを見計らって、店内の奥にある休憩ブースに行くと、蘭々はふと考えた。

 ――それにしても。
 彼は、ビジネススーツを着ていた。

 自分のことは聞かれたくなかったのであえて聞かなかった。だから、ケイの副業がなにかは知らない。

 その副業、もしくは本業の仕事で来ていたのだろうか。

 ――なぜあんな高級ホテルに?
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