幸福論
ふと隣を見ると
私達と同じように糸を垂らして
静かな時間を過ごす人がいた。



キャップを被っているから
表情まで見えないものの、


よくよく見ると今朝、
私が静哉にあげたキャップと
全くおんなじものを被っていた。



あれは新作だったはず。
ってことは昨日のパーティーに来ていたのだろうか。



じーっと見る私に気づいたのか
その人はパッとこちらを向いた。



一瞬驚いた表情をしたが
私が逸らすよりも前に
その人は再び糸に視線を落とした。


さっきよりも
さらにキャップを深くかぶり直した彼は
また変わらず静かな時間を過ごす。



それから何も釣れることなく
1時間が経った。






「今日泊まるの?」







ふと静哉に投げかけた、
まるで彼氏に聞くかのような質問。
だけど相手は弟。






「んーーどうしよっかなーー」

「泊まるなら買い物しなきゃだから
車戻るまでに決めてね。」






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