恋は小説よりも奇なり
「そうか」
奏の手が満の背中に回り、一度だけギュッと抱きしめる。
腕の力を緩めたと同時に「……ありがとう」と優しい言葉を伝えた。
「私、雪乃さんを好きになります。好きな人の好きな人をちゃんと大切に想えるように」
いつか彼女の話が笑って一緒にできるように……
「お前は本当に人が良いな。それにすぐに泣く。まぁ、今泣かせているのは俺なんだが……。その顔も嫌いじゃないが、笑ってくれないか?満の笑顔が見たい」
奏は親指の腹で満の目元を拭った。
二人の視線が重なって、彼女の視界に奏の穏やかな表情が映る。
「私の笑顔は高いですよ……?」
泣き笑いの顔。
自分では確認できないが、世界一不細工な笑顔のはずだと満は確信する。