恋は小説よりも奇なり
「理由は何ですか?」
奏の背中に満は問う。
彼は立ち止まりこそしたが振り返ることはしなかった。
「お前に話す必要は無い」
奏が放つ言葉のひとつひとつが鋭利な刃物のようになって満の心に突き刺さる。
満は紙袋の紐を握り締める手にギュッと力を込めた。
爪が掌に食い込んで白くなる。
「そうかもしれないですけど――…そういう言い方って無いと思う……」
「理由を話したところで俺の答えは変わらない。時間を無駄に使うだけだ」
「…………」
徹底的な拒絶。
大和が言いたかったのはこういう意味だったのだと気付く。
「私……樹を通じてですけど、高津さんから聞いていました。あなたはこういう物を受け取らないだろうって――…」
「それならどうして準備なんてしてきたんだ」
奏の冷たい言葉。呆れたような溜息。