大嫌いの裏側で恋をする


……帰ろう。
重い足を引きずるように、
歩き出した私を呼び止める、気の抜けるような。
それでいて楽しそうな、声。

「お疲れ〜、石川ちゃん」

ピタリと足を止める。

「……あ、秋田さん」
「会いに来たよ〜」

顔を上げたら、数メートル先に秋田さんの姿。
手を振りながら近付いてくる。

「え?高瀬さんなら今日は直帰ですよ」

私の顔をジッと見た後に、ぶは! っと秋田さんは吹き出した。

「ああ、そうくるのかぁ。違うよ、石川ちゃんに会いに来たんだけど、俺」
「……は?」

首を少し傾けて、ニッと笑う。

横に流してる少し長めの前髪が、一緒にサラリと揺れた。

< 225 / 332 >

この作品をシェア

pagetop