大嫌いの裏側で恋をする


まだ慣れない。
自分から女を誘うのなんて、マジでこんな小っ恥ずかしいもんだったのかって。

「んー、明日で一通り終わらせて月曜朝イチで締めちゃいたいんですよね。 じゃないと経理から急かされるし」
「んで?」
「だから、時間わからないんで何ともです」

気の無い返事に、どう返せばいいのか。

(さっぱりわからん)

彼女って立場になった今も、仕事になると対して今までと変わらなくて。
互いに忙しけりゃ言い合いになるし。
いまいち、どんな距離感がこいつを繋ぎとめていられんのかも、把握できてない。

秋田さんと、あいつが、まあ……なんか色々ありそうになった時に偉そうに言ったけど。
結局は手探りで、今も自分たちの形を探してる気がする。


忙しそうにする石川を横目に、席を立つ。
タバコを一本取り出しながら喫煙ルームに入ると先客がいた。

「あはは、来ると思った。 石川さんに相手されてなかったから。 可哀想に」
「何だよ機嫌悪りぃな、奥田」

この男が、にこにこ食えない笑顔で毒を吐くときは大概機嫌が悪い。
んなもんで、真面目に取り合っても疲れが増すだけだ。

「まあこっちも色々忙しいからね」
「あ、そう。 そりゃお疲れ」
「で? 高瀬は何に焦ってんの?」
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