大嫌いの裏側で恋をする

***

「で? 気持ち悪りぃからハッキリ言え」

あの電話の後、ほんの数分だろうか。

頭の中はどんな会話をすればいいのかでいっぱいだったから、実際はもう少し経っていたのかもしれないけど。

どちらにせよすぐに高瀬さんがやってきて、タクシー乗り場の少し後ろに停車した車の中から名前を呼ばれ、助手席に乗り込んだ。

そうして、開口一番が、その言葉だった。

「気持ち悪いって、散々な言われよう」

「……喚かないお前とか、本気で気持ち悪りぃから言え」

何をですか、と私は前を見たまま聞き返す。

「お前のテンション下げてる理由を、言え。 聞いてやってもいい」

聞いてやってもいいって、なんなの。

今までの私ならきっと、そう、思ったんだろう。

でも今は。

頭に触れた手が、暖かいと知ってるし。

甘さのない言葉の中に、優しい音が混ざっていることも、知ってしまってる。

小さく、息を吸い込んで。

ツンと鼻の奥が刺激されそうになるのを、抑え込む。

平気そうな声、出て! って自分に言い聞かせながら。

「あの、私って、口が悪いんですよね」

「……は? 今更かよ。 ついでに気も強けりゃ頑固で負けず嫌いだな」

「……ははは、うん。 その通り。 そうやって威勢いいわりに、なんにも、できない」

(あ、でもやっぱダメだ)

いとも簡単に強がりは崩れ落ちそうになる。

声が震え出したことに気が付いたんだろうか。

高瀬さんの、息を呑む音が小さく聞こえた。

「吉川さんみたいに、仕事できるようになりたくて……でも全然、いざとなったら真似もできなくて」
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