大嫌いの裏側で恋をする
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「で? 気持ち悪りぃからハッキリ言え」
あの電話の後、ほんの数分だろうか。
頭の中はどんな会話をすればいいのかでいっぱいだったから、実際はもう少し経っていたのかもしれないけど。
どちらにせよすぐに高瀬さんがやってきて、タクシー乗り場の少し後ろに停車した車の中から名前を呼ばれ、助手席に乗り込んだ。
そうして、開口一番が、その言葉だった。
「気持ち悪いって、散々な言われよう」
「……喚かないお前とか、本気で気持ち悪りぃから言え」
何をですか、と私は前を見たまま聞き返す。
「お前のテンション下げてる理由を、言え。 聞いてやってもいい」
聞いてやってもいいって、なんなの。
今までの私ならきっと、そう、思ったんだろう。
でも今は。
頭に触れた手が、暖かいと知ってるし。
甘さのない言葉の中に、優しい音が混ざっていることも、知ってしまってる。
小さく、息を吸い込んで。
ツンと鼻の奥が刺激されそうになるのを、抑え込む。
平気そうな声、出て! って自分に言い聞かせながら。
「あの、私って、口が悪いんですよね」
「……は? 今更かよ。 ついでに気も強けりゃ頑固で負けず嫌いだな」
「……ははは、うん。 その通り。 そうやって威勢いいわりに、なんにも、できない」
(あ、でもやっぱダメだ)
いとも簡単に強がりは崩れ落ちそうになる。
声が震え出したことに気が付いたんだろうか。
高瀬さんの、息を呑む音が小さく聞こえた。
「吉川さんみたいに、仕事できるようになりたくて……でも全然、いざとなったら真似もできなくて」