mimic
「俺、こういう肩書きだから、昔からけっこう人が寄ってくるんだけど。そのせいで大切な人が、俺を信じてくれなくて。離れていってしまったんだ」


持参したグラスを傾けて、阿部店長は喉に流し込む。横顔に、哀愁が漂っている。


『だって、信じられないってだけなら、また信用してもらえるように頑張りゃいいんだろ?』


簡単に言った唯ちゃんの言葉が頭のなかでリピートする。救いようがないくらい、軽かったな。
信じられない、って、すごく致命的なのに。
それに……。


『唯彦さんになにか言われて、揺れてる?』


もうグラスの口切りすれすれいっぱい、溢れそうなくらい。頭のなかは海月のことでいっぱいなのに。


「信じて貰えないって、ショックですよね」


中身の残りがわずかになったグラスを両手で持った。


「けど、けっきょくそれって、お互いが信じ合えるくらい、強く愛してなかったってことなんですかね……って! わたしってば偉そうに言っちゃって、すみません」


酔いのせいにしたくて、ビールを飲み干す。
横目でちらりと見ると、阿部店長は真顔で静かに口を開いた。


「彼氏さんと、うまくいってないの?」
「……」


ドキッとして、わたしは目を伏せる。

出会ったときから海月は、飄々としてて、掴み所がない人って印象だった。体を重ねても、どこか満たされない感じがして。
愛してもまだ足りない、まだ足りないって靴の上から足を掻くような歯がゆさがあった。ほんとうに心が通じ合ってるのか、すごくもどかしくて。
ずっと触れていたくて。

だけど。


『わかった。じゃあこれからは、俺の好きにさせてもらう』


もう、戻ってこない……。
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