mimic
「やっと捕まえた。」


とくん、と鼓動が早まる。
温もりを感じただけで、身体の奥から込み上げてくるものがあって、胸がきゅんとする。


「……どうして言ってくれなかったの?」
「え?」
「大きい会社の、えらい人だって。わたしのこと、信用してなかったの?」


抱きしめようと背中に回した両手を、海月はぴたりと止めた。ただ棒立ちで、当惑した声で言う。


「うーんと。それは、言ったんだけど……」
「え?」
「正確には、言ったっていうか、見せたって言うか」


わたしがいるから窮屈そうな仕草でジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出した海月に、一枚手渡された。
初めて会って、ここで一緒に飲んだ日に貰ったのと同じもの。


「あのとき小夏ちゃん、けっこう酔ってたからなぁ」
「え?」


得心顔で笑う海月に対し、釈然としないわたしはその名刺をじっくりと見た。電灯の下ですこし傾けると、名前の前に、見過ごすくらいにとても小さく、CEO、と光沢のある凹凸があった。色味はなく、ほんと凹凸だけ。


「こっ、こんな小さいでこぼこなんて、気づかないって! 普通!」
「ははは」


わたしの抗議を海月は乾いた笑いで一蹴する。


「まあ、解決ってことで。これで遠慮なく」


わたしの手からひょいっと名刺を取り上げた海月は、それをぞんざいにソファに放る。


「たった二日で、もう小夏ちゃんが足りなくて」
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