mimic
「これじゃ、理性保てって方が不健康だなぁ」


そっぽを向き、わたしの手で自分の口元を覆うように抑える。


「……へ?」
「小夏ちゃんに嫌われたくないから隠してたんだけど、」


その言葉にわたしが身構えるより早く、海月の吐息交じりの声が耳元すぐ近くで聞こえた。


「実は俺、あらゆるタイミングで小夏ちゃんに欲情してるんだ。」


神妙な声でなにを言うのかと思ったら。


「……それ、さっきも聞いた」
「はは、色っぽい声。そそられるなぁ」


海月はからかうように鼻面で囁く。

伏せた睫毛の影、傾げた顎のライン、耳元に添える手の骨っぽさ。
わたしのなかで動くとき、すこし顔を歪めて増える目尻の皺とか、堪えるような緩急のある息遣い、擦れるたびに熱く変化する体温だとか。

色気がヤバくて、他の人には絶対見せたくないって思ってしまう。わたしも海月を独り占めしたい、って。

こっちも全然余裕がないから、つぶさに観察できるってわけじゃないんだけど、わたしのほうがはるかに、海月のすべてに陶酔しているのだ。

信じる気持ちにときに翳りが刺すことがあっても、わたしはそれを乗り越える。理性的に話し合い、本能的に愛し合う。よっぽど生身の人間らしく。

そんな風にこれからも、大好きな光景のなかに、海月の体温があったらいいのにな……。
それだけで、セピア色の平面的な風景に、温かい灯りがともって。わたしの世界が鮮やかに色づく。

海月の腕に包まれるように抱かれながら、遠のく意識のなかでそんなことを思った。



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