mimic
地下鉄の駅に着いて、わたしは覚束ない足取りで階段を降りると来た電車に乗った。
次の駅で降り、亡霊みたいにまた歩く。
寒さも暑さもまったく感じないのに、汗だけが止めどなく流れていた。
街灯が灯る頃、緑が多い場所まで着いて、わたしはお城のような大きな建物の前で立ち止まった。
『そりゃ、まあね。小夏は昔から俺の可愛い妹みたいなもんだし』
わたしは。
耳を、塞いでただけで。
『俺にはこの仕事がすべてなんだ』
唯ちゃんの本心は、もう聞いてたんだ……。
「それでも、わたしには、唯ちゃんしか……っ」
いなかったのに……。
ライトアップされた鐘を見上げる。
視界がじんわりと、滲んできたときだった。
「っ、」
所在無くぶらんとただ両脇に垂らした手を、後ろからグイッと引かれた。
「ああ、やっぱり。小夏ちゃんだ。どうしたの」
弾む息遣いとは裏腹に、多野木の口調は悠長だった。
肩が外れるくらい強く引っ張られたので、体は引き戻されたゴムみたいになって、首ががくんてなった。
「……唯ちゃんが、さ、」
わたしの低いトーンのガサガサ声に、多野木はぴくりと片眉を動かす。
「ここに来たのって、わたしとじゃない女との、結婚のためなんだよね」
「……」
「わたしは、自分がお嫁さんになるつもりでついてきたりして。バカみたい」
「……」
「ほれ見たことか、って思ってる? 裏切られて」
自嘲気味に言って、わたしは徐々に目線を上げる。
次の駅で降り、亡霊みたいにまた歩く。
寒さも暑さもまったく感じないのに、汗だけが止めどなく流れていた。
街灯が灯る頃、緑が多い場所まで着いて、わたしはお城のような大きな建物の前で立ち止まった。
『そりゃ、まあね。小夏は昔から俺の可愛い妹みたいなもんだし』
わたしは。
耳を、塞いでただけで。
『俺にはこの仕事がすべてなんだ』
唯ちゃんの本心は、もう聞いてたんだ……。
「それでも、わたしには、唯ちゃんしか……っ」
いなかったのに……。
ライトアップされた鐘を見上げる。
視界がじんわりと、滲んできたときだった。
「っ、」
所在無くぶらんとただ両脇に垂らした手を、後ろからグイッと引かれた。
「ああ、やっぱり。小夏ちゃんだ。どうしたの」
弾む息遣いとは裏腹に、多野木の口調は悠長だった。
肩が外れるくらい強く引っ張られたので、体は引き戻されたゴムみたいになって、首ががくんてなった。
「……唯ちゃんが、さ、」
わたしの低いトーンのガサガサ声に、多野木はぴくりと片眉を動かす。
「ここに来たのって、わたしとじゃない女との、結婚のためなんだよね」
「……」
「わたしは、自分がお嫁さんになるつもりでついてきたりして。バカみたい」
「……」
「ほれ見たことか、って思ってる? 裏切られて」
自嘲気味に言って、わたしは徐々に目線を上げる。