mimic
キスを要求しながら多野木は千鳥足のダンスみたいにわたしの体を動かして、ソファに組み敷いた。


「流したら、小夏ちゃんの甘い匂いが消えちゃうでしょ」


至近距離で見つめ合って、にっこりと目を細める。

タンクトップのなかに侵入してくる多野木の手や、覆い被さる肩や絡まる太ももが、密着する。


「で、でも……」


起き上がろうとすると、窮屈に肩を押し返された。


「もう、黙って」


深いキスでわたしを黙らせる。
応えようと、口を半開きにすると、多野木の動きが止まった。


「可愛い」


観察するような眼差しを向けられ、恥ずかしくて頬が一気に上気する。
顎を引くと、待ち構えていたかのように唇を押しつけられた。

むさぼるような激しいキス。唇が擦れるくらい。絡まる舌から溢れる唾液を、飲み込む喉の音が響く。

こんなキス、したことない。
やっぱり多野木は動物だと思う。
本能で、動いてるんだと思う。


「あまりにも可愛いから、意地悪したくなるな」


敏感なうなじにばかり、執拗に吐息と舌先で触れられて、なんかもう頭がおかしくなりそうだった。

三日月みたいな胸の傷跡を目の当たりにし、一瞬目を細めた多野木は、撫でるよに優しく手をあてた。


「痛い?」


もう全然、痛みなどなかった。たまにちりちり神経に障るくらいで。
でも、この質問はたぶん、この傷に対してではなくて。


「んっ……」


自分じゃ聞いたこともない甘い声に、とっさに恥ずかしくて口を手のひらで覆う。
甘い匂いのする方を探るように、多野木はわたしのなかに入れた指を動かした。


「すごい、蜜、溢れてくる」
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