mimic
小声で言うと、多野木は片眉を釣り上げて、ふっと笑った。
まるですべてを、見透かしたように。
「お礼、する、から」
声が上ずる。棒読みだった。
「ビールくらいしかないけど、良かったら……」
わたしは生まれてこのかた二十三年間、男性経験がない。
唯ちゃんとも……。
だから今となっちゃ、本当にただの妹としての存在でしかなかったんだったと認めざるを得ないんだけど。
だから、こういうなんていうか。
男と女の駆け引きみたいな。状況になったことがない、ので。
「つまりその、もう少し、ここにいてほしい……」
消え入りそうな声だった。
俯いていた目線を上げると、相手の姿がすぐ目の前まで迫っていたから驚いた。
すっと手を伸ばした多野木は、わたしの頬に触れる。反射的に肩がピクッと動いた。
「傷心につけこんでるみたいで、マズいんじゃないかな」
この期に及んで多野木は、口では大層殊勝なこと言って、ワイシャツの小さなボタンをひとつひとつ、丁寧に外す。
外で働いてるはずなのに意外と無骨ではなく繊細な細い指とか、太陽に向けられていた眩しそうに細める瞳とか。
初めて見かけた日から、ずっと心に焼きついていて離れない憧憬が、すぐそばにある。
「いいの? 小夏ちゃん」
声が出なくて、わたしはこくんと頷いた。
「小夏ちゃん、なんかいい匂いする」
多野木はくんくんと、犬みたいにわたしの口元に鼻を寄せる。
そしてワイシャツをぞんざいに脱ぎ捨てた。
そういえば、来るときに滝のように汗をかいたんだった。
背中がゾクゾクしてたまらなくて、わたしは顔を背ける。
「しゃ、シャワー、浴びたいな……」
「ダメだよ 」
まるですべてを、見透かしたように。
「お礼、する、から」
声が上ずる。棒読みだった。
「ビールくらいしかないけど、良かったら……」
わたしは生まれてこのかた二十三年間、男性経験がない。
唯ちゃんとも……。
だから今となっちゃ、本当にただの妹としての存在でしかなかったんだったと認めざるを得ないんだけど。
だから、こういうなんていうか。
男と女の駆け引きみたいな。状況になったことがない、ので。
「つまりその、もう少し、ここにいてほしい……」
消え入りそうな声だった。
俯いていた目線を上げると、相手の姿がすぐ目の前まで迫っていたから驚いた。
すっと手を伸ばした多野木は、わたしの頬に触れる。反射的に肩がピクッと動いた。
「傷心につけこんでるみたいで、マズいんじゃないかな」
この期に及んで多野木は、口では大層殊勝なこと言って、ワイシャツの小さなボタンをひとつひとつ、丁寧に外す。
外で働いてるはずなのに意外と無骨ではなく繊細な細い指とか、太陽に向けられていた眩しそうに細める瞳とか。
初めて見かけた日から、ずっと心に焼きついていて離れない憧憬が、すぐそばにある。
「いいの? 小夏ちゃん」
声が出なくて、わたしはこくんと頷いた。
「小夏ちゃん、なんかいい匂いする」
多野木はくんくんと、犬みたいにわたしの口元に鼻を寄せる。
そしてワイシャツをぞんざいに脱ぎ捨てた。
そういえば、来るときに滝のように汗をかいたんだった。
背中がゾクゾクしてたまらなくて、わたしは顔を背ける。
「しゃ、シャワー、浴びたいな……」
「ダメだよ 」