mimic
瞼の奥が明るいなって気づいて、同時に下腹部に鈍い痛みを感じた。
薄く目を開けて、耳を澄ませる。

海月はどこ……?

体が怠いので、わたしはソファに仰向けになる体勢のまま、目だけとキョロキョロ動かしてみる。
窓の外は朝日が昇っていて、明るかった。


「いない、の……?」


掠れた声が出た。

え、嘘……。
いなくなったの?


「海、月……」


唯ちゃんの会社と取引がある、結婚式場を管理する、フォレストカンパニーとかいう造園会社で働いていて。
名前の漢字がクラゲって字で、あと笑顔や立ち振る舞いが飄々とした狐っぽくて。

指が細くて、冷たくて硬い。
理性的じゃないキスをするくせに、加減しながら優しく抱く。

それは全部、このたった数日間で知ったことで。

もしも許されるのなら、この心底救いようのないわたしを受け入れてくれるのなら。

もっと、知りたいことがある。


「……と、助……った……」


不意に話し声が聞こえて、わたしは重い体を起こした。
途切れ途切れだけど、聞き違えるはずはない。昨日まで全身全霊で信頼していた、唯ちゃんの声。

ソファの下に散乱している服を拾い上げ、手早く着替えるとなるべく音を立てないように、ドアに近寄る。
磨りガラス越しの玄関には、ふたつの人影が窺えた。
< 30 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop