mimic
「どうなることかと思ったけど、お前が本当に働き者で助かったわ」


働き者……?

ひんやりとしたドアに痛いくらい、耳を強く押しつける。
唯ちゃんの声はよく聞こえるけれど、話の内容はまだよく把握できない。


「彼女といるとこ見せろってのもお前の案だもんな」


彼女といるとこ?
お前の、案……?


「まさかこんなに早く、しかもスムーズに事が済むとは思わなかったよ」


身震いがしたのは、寒いからじゃない。
部屋はむしろ、蒸すくらいだった。


「これ、約束の金。くれぐれも会社には内密にな」


それなのに体の芯から震えてきて、ドアに振動が伝わりそう。


「わかりました、菅野さん」


これが、狐の正体?

初めから、


『あ、俺、頼まれ屋の多野木です』


唯ちゃんに仕組まれた、罠だった__?


「……っ……」


心臓がうるさい。
傷あとがちりちり痛む。


「俺は会社を任された選ばれた人間だ。あいつに人生狂わされちゃたまったもんじゃないからな」


唯ちゃんがこんなに冷たい声で話す人だったなんて知らなかった。
いとこ同士で二十三年、いつも一緒だったのに。ずっと大好きだったのに。


「本当にご苦労さん」


わたしが聞き耳を立てているとも知らずに唯ちゃんは、くつくつと卑しく笑う。


「庭師とかより、女騙す仕事の方が合ってんじゃない?」


そっか、そうなんだね。
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