mimic
シャワーのあと部屋の前を通りかかると、ほんの数ミリ空いた襖の隙間から明かりが漏れていたので、わたしは足を止めた。
息をひそめて、襖の隙間に目をくっつける。
海月の前に置かれたパソコンの画面には、草木の写真とか、図面のようなものが映されている。


「小夏ちゃん。それは、鶴の恩返し運動?」


突然、キーボードを叩く音が止んで、海月が首を動かした。


「覗くくらいなら入ってきなよ」


襖の隙間を通して目が合ってしまい、ギョッとするわたしを他所に海月は目を細める。


「の、覗いてないし! たまたま通っただけだし!」


苦しい言い訳をしてみたけど、バレたことにわたしはかなり動揺した。
しかも、鶴の恩返し運動ってなんだ? あいさつ運動みたいなもん?

ていうか……物音ひとつ立てたつもりはない。なんでわかったのかな。
動物の勘、てやつ?


「まだ、仕事してんのかな、って……」
「うん、ちょっと庭の設計をね」
「そうか、そういうのやってんだ……」


なるほど、と顎に手をあてて納得していると。


「小夏ちゃん、まだ終わりそうにないから先に寝てて」


すんなりと発した海月の悲劇的な一言に、わたしは項垂れたい気分でいっぱいになる。
その間にも海月はもう、こちらに背を向けパソコンに向かっている。


「っおやすみ!」


今度はわざと勢いよく襖を閉め、後ろ髪を引かれつつ二階の自分の部屋に戻った。
< 41 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop