mimic
「とにかく、戻ってきてくれよ、小夏」


早く、早くこの場から立ち去りたかった。
わたしは唯ちゃんの真横を駆け足で通り過ぎた。


「今更……なに言ってんの?」


よくわかんないけど玉の輿がうまくいかなかったからって、泣きついてくるなんて。プライドってもんがないわけ?
しかも、海月のことまで悪く言って。まったく説得力がないっての。


『でも、さ。それは、俺と小夏、ふたりで力を合わせて生きて欲しい、っていうのが前提で、じいちゃんは小夏にあの家をやるって遺言残しただろ? ってことは、俺にもあの家を好きにする権利はあるんじゃないか?』


家を渡したら、納得するのだろうか。


『葡萄ジャム。小夏ちゃん、好き?』


大切な、海月との日々を。


『失ってから、お前の存在の大きさに気づいたんだ』


勝手なことを言うよね、ほんと。


だけど、動揺したのも事実。二十三年間はあまりにも長い。
家族だもの。過ちを認めて再出発するものなのかもしれない。


「認める……?」


わたしだって……。
唯ちゃんに依存して、執着して。だけど裏切られる前に、海月に惹かれてた。
わたしも唯ちゃんと、同罪かもしれない。


「……っ……」


胸がきゅうっと苦しくなって、不意に足を止めたら。目に見えるはずのない人の姿が、わたしの視界を満たした。

幻覚? 鳥肌が立った。
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