mimic
「小夏ちゃん」


目の前に現れた海月は、限りなく目を細める。


「海月……どして……?」
「よかった、会えた。」


海月は満足そうに、柔和に微笑んだ。


「仕事、この大学の近くだったんだ。たまには一緒に帰るのもいいかなって思って、小夏ちゃんそろそろ出てくるかな、って、うろうろしてた」
「う、うろうろ? いつから?」
「これ、落ちてたから拾ってた」


わたしの質問をシカトして、海月は手に持っている小さなピンクの物を、目の高さで掲げる。
歩幅を小さく歩み寄ると、それはわたしがさっき見上げた、コブシの実だった。


「げげ、虫かと思った」
「子どもの握り拳に似てるから、コブシっていうらしいよ」
「へえ……さすが、庭師。詳しいね」
「この袋果が破けて赤い実が出てくるんだ。鳥が食べやすいようにね。鳥は、黒い種だけ残すんだけど、それがハートの形をしてて。可愛いんだよ」
「……」


わたしは海月のすぐそばまで行って、長袖のシャツの袖を掴む。
安心感で、脱力しそう。もたれるように、海月の腕に寄りかかった。


無駄な肉のない、二の腕をぎゅうと掴み、骨っぽい肩におでこをつける。


「わお、積極的だなぁ。はは」


芝居がかった間延びした言い方に、乾いた笑い。
見えていないけど、きっと海月は狐みたいに目を細くしてるんだと思う。


「帰ろ? 小夏ちゃん」
「う、ん……」


すごく儚くて、心もとない。
黄昏の帰り道は、余計に。

ずっとずっとこの先も、一緒に帰ろうって言い合えるかな?


『お前は世間知らずだから、どうせあいつの口八丁手八丁にまんまと騙されてるんだよ』


もう、かなしい思いはしたくない……。



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