mimic
真っ赤な和金と黒出目金が、冷たい水のなかを泳いでいる。

今日は仕事が早く終わるって言うから、楽しみにしてたんだ。わたしも早く帰れば、一緒に過ごす時間が長くなる。
迎えに来てくれたなんて、ちょっと感動……。


「小夏ちゃん、もしかしてこれ……、欲しいの?」


もったいぶって、ようやく口を開いた海月の手に、僅かに力がこもったような気がした。


「うん、なんか、綺麗だなって」
「飼えるの?」
「飼えるよ、小屋に金魚鉢あるし」
「そーゆーことじゃなくて。庭をあんなに枯らした小夏ちゃんに、生き物が育てられるの?」
「……」


無数の金魚たちは依然、ひたすら泳ぐことに熱中している。


「千葉さん」


犬や猫たちと共に、ガラス張りの内側で仕事をしていた千葉さんは、駆け足で売り場に飛び出して来た。


「はい、どうしました?」
「この和金、一匹買いたいんですけど……」
「はい! ありがとうございます」


しゃがみこみ、金魚を選ぶ。
千葉さんが手あみで掬ってくれる様子を、海月は何も言わずに両目が無くなるくらいにきつく細めて見ていた。




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