mimic
「もう少し茂っちゃったら、月が見えなくなっちゃいますネ」


僅かに笑いを帯びた声で言い、多野木さんは細めた両目を庭の方に向ける。


「あ、そ、そうですね」


わたしも釣られてそちらを見た。

この現状を見たら、天国のおじいちゃんは悲しむかな。そんな風に思って、胸がちくりと痛んだとき。


「まあ、これはこれで趣があっていいのではないですか?」


ぽつりと言って多野木さんは、残りのビールをぐいぐい喉に流し込んだ。
慰められてるようで心苦しいけど、なんだか嬉しかった。

目に映る月明かりがだんだんぼやけてきた。酔いが回ってきている。
けれどもほぼ初対面の人と一緒だ、という最低限の緊張で、わたしはなんとか平静を保っていた。

今何時かな、って壁にかけた時計を見ようとして、ふと、テーブルの上に置いたままの鳴らない携帯が目についた。


「あの、言伝は今日、唯ちゃんに直接会って頼まれたんですか?」


唯ちゃん、今日ひとりで式場に行ったのかな。


「あ、えーと。ま、ハイ」


歯切れが悪い返事だったので、わたし訝しげに言った。


「わざわざ庭のこと頼みに行ったのかしら。わたしに一言もなく」
「えっと。菅野さんの会社、うちの式場に出入りしてるんですよ。飲み物とか食材とか……」
「ああ、やっぱり。取引先か」


それで会って、強引に頼まれた、ってとこかな。ほんと自分勝手なんだから……。

一応これ、と言って多野木さんはスラックスのポケットから革のケースを取り出し、名刺を一枚差し出した。

まくっている白いシャツの袖から伸びる腕に筋肉の線が浮き出ている。キラキラ降り注ぐ木漏れ日のなかで、木や緑を慈しむように作業する手、だ。


「……フォレストカンパニーの多野木、といいます」
「えっ、あ、はいっ!」
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