mimic
盛大に困惑し、口を半開きにしていると、再び玄関のドアが開いた。


「迷惑、だったかな」


ドアの隙間から徐々に姿を現す人物の体も、雨水にずぶ濡れだった。

わたしと阿部店長、それからふたりの間に所在無く浮いたビニール袋を見比べて、やっぱり目を細くする。

一拍間があってから、阿部店長が口を開いた。


「良かったら俺、水槽の設置とか一緒に……」


わたしではなく海月を見てそう言った。

濡れた手で、赤茶けた前髪を掻き上げた海月が、こもった声でくっと笑う。


「一緒に、って。誰と、誰が?」


元から細い目を無くなるくらい、極限まできつく細め、阿部店長を見下ろした。


「生憎。男ふたりに女ひとり、そんな趣味、俺ないですよ。はは」


飄々とした調子で言い切ったあとの、得意の乾いた笑いが玄関中に反響する。
顔面が一気に熱くなった。


「な、なにバカなことを言ってんの⁉︎ 変な意味なわけないじゃん! もうっ、恥ずかしい……!」


と、わたしが叫んでいるうちに店長は、気まずそうにそそくさと出て行った。水槽を持って。


「ちょっと、庭の方を見てくる」


閉まったばかりのドアを、海月がまた開けようとする。
外は、バケツをひっくり返したような雨。家すら飛ばしてしまいそうなほどの風。


「ここにいて……っ」


衝動的にわたしは、海月の腕をしっかり掴んでいた。
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