mimic
「ん……っふ」


くらくらする。
舌をすくい取るような動きに応えるだけで、両足の力が抜けそう。

深いキスを解くと、海月は濡れて体にへばりついたワイシャツを摘んだ。


「これ、気持ち悪い。脱がせて」


わたしは海月の手を引いた。

襖を開け、海月の仕事部屋に入る。愛用のパソコンのそばには、プリントアウトした紙が積まれていた。一番上にあるのは、〝金魚の生態〟。
閉じこもって、仕事してるのかと思ったら……。

布団の上に膝を折り、向かい合って座る海月のワイシャツのボタンに手をかける。


「……っ」


震えて上手くいかない。
だからゆっくり、ゆっくりと。濡れた前髪がひどく色っぽくて、ボタンを外す焦れったさにさえ欲情してる見苦しいわたしを、海月は一言「可愛い」と言って甘やかす。

ようやくシャツを脱がした終えると、わたしの体に覆い被さってきた海月は、愛撫しながら裸にしてゆく。

太ももに指が食い込むだけで、熱っぽい吐息が注がれるだけで。
理性は掻き乱され、劣情に溺れる。

始まった律動で、星が降ってくるような錯覚に陥った。


「はあ……っ」


水のなかにいるみたい。
癖になる息苦しさ。

ここは外とは隔離された、わたしたちふたりだけの世界。


『愛情を注いだ分、喪失感が大きいから』


このひとときが、刹那的。そんなの当たり前。だから、大切なの。他に代わりなどきかない。


『心の負担になることは、なるべく避けた方が賢明だよ』


愛情を加減して悲しみを回避するのは、小利口な生き方だ。いつだって、わたしは精一杯。


精一杯、与えられる蜜を欲する。





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