mimic
『フォレストカンパニーって、あれだよね。結婚式場とかレストランとかの運営会社、だよね』


なんだか、含みのある言い方だった。
まるでわたしを、疑っているような。

季節の変わり目特有の忙しい一日の勤務を終え、ホームセンターを出る。
アイボリーのマフラーで顎を隠すように巻き直し、わたしは早足で歩いた。


『そこって、造園会社じゃないよ』


阿部店長の、優しく問いつめるような言葉が気になったし、それになにより。会うなら、あそこに行くしかない。

地下鉄に乗り、数駅先で降りた。向かったのは、海月と初めて出会った結婚式場。
まだそのときは、わたしは違う人との明るい未来を思い描いていた。

チャペルが見えてくる。
日が短くなったので、街灯が灯り始めた。
式場にはレストランやホテルが併設されていて、広い敷地には芝が敷かれ道なりに木が植えられ、季節の花が楽しめる。
石畳みの噴水広場も、花をモチーフにした街灯の形も、すべてがメルヘンチックで可愛らしい。この一帯が、緑に囲まれたひとつの小さな街のようだった。

海月はこの広い敷地内すべてを、ひとりで作業しているのかな。
とぼとぼと歩きながら、わたしはガーデンを見渡す。

するとライトアップされたガーデンに、今まさに披露宴を行っている笑顔のカップルと、祝福する出席者たちの姿が見えた。賑やかな声が聞こえる。
なんだか、ロウソクの炎のなかに見えた輝かしい憧れの世界、みたいで。素敵だった。眩しすぎるくらい。

かじかんできた指先を温めるように握りしめ、周囲を見たけど、ガーデンに海月の姿はない。
さすがにもう夕方だし。作業は終わって帰ってるかも……。

うん、そうだ。わたしもこんな、他人の結婚式を覗く怪しいことしてないで帰ろう。
コートのポケットから携帯を取り出し、メッセージが届いていないか確認しながら踵を返そうとしたときだった。
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