mimic
わたしはコマ送りみたいなぎこちない動きで、声の主の姿を辿った。

最初に、よくうちの玄関のたたきに置いてあった、革靴が目に入った。とても丁寧に磨かれ、黒光りしていたからだ。


「た、多野木……!」


ようやく絞り出したような震えた声で言い、唯ちゃんは唇を噛む。


「いいんですね、こっちはこうなりゃどんな手でも使いますよ。はは」


掠れた語尾は乾きまくってて、全然笑っているようには聞こえない。

海月はさっきわたしが式場を覗いたときと同じ細身の黒いスーツ姿で、顎を上げ、盛大に目を細め、唯ちゃんに対し軽蔑するような冷酷な目を向けている。


「あんたみたいな引き際も知らない最低な人間ひとり潰すくらい、造作ないんでね」


そして、狼狽するわたしを一瞥もせず、感覚だけで引き寄せる。


「とっとと失せてもらえますか。目に入るのもおぞましいんで」


唯一の反抗なのか、舌打ちをひとつ披露した唯ちゃんは渋い表情で立ち去ると、社用車の運転席に乗り込む。
発進したのを見計らって、海月はわたしの顔を覗き込んだ。


「あんなんとふたりきりで、なにしてるの、小夏ちゃん」
「……っ」


なんか、どうしちゃったんだろ。
見つめられただけで泣きそうになる、なんて。こんなに感情的になって、昂ぶるなんて。

海月をすごく欲してたって自覚して、弱い女みたいで、やだ。


「泣いたの? あいつの前で。」
「っ!」
< 91 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop