mimic
閉口するわたしの目尻に人差し指でちょん、と触れ、赤茶色の前髪を揺らした海月はやれやれといった風に宙を仰いだ。


「男は隙を狙ってるんだよ」


煩わしげな、溜め息交じりの声。


「これじゃ隙だらけだよ、小夏ちゃん……勘弁してよ」


そんな、鬱陶しそうに言わなくても……。

かなしくて、悔しくて。わたしは唇をキュッと結んだ。


「あいつに、なにかされた?」


唯ちゃんが運転する車が走り去って行った方角を鋭い目つきで眺め、今度はわたしの全身を検分するように足元から順に見た。

とっさにコートのお尻の部分を手で払い、わたしは後ずさる。


「別に、なにも……わたしは大丈夫だから」
「俺が、我慢できないの。」


せっかく離れたのに、被せるように言って、海月はまたわたしと距離を縮める。


「想像しただけで頭がおかしくなるよ」


両目を細め、目尻に皺を作って笑顔のくせに。声色はとても硬質だった。


「小夏ちゃんが、ほかの男と一瞬でも一緒だったなんて」


わたしだって、おかしくなるよ。
そんな、今度は切なげな面差しで、乞うように言われたら。胸の奥が、きゅんとしてしまう。

だけど。


「海月?」


目覚まし代わりにガツンと後頭部を強打されたような衝撃。
なにを悠長にときめいてるのだろう。わたしは自分を呪った。
揺れたりして……バカじゃない、って。
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