mimic
こちらに近づいてきた彼女は、駐車場に停めてある高級車の鍵をリモコンで開けた。
わたしを見つけ、認識すると目をすがめた。あからさまに嫌悪した様子で。


「時間がないわ、乗って」


促され、海月は不遜な調子で溜め息を吐く。


『あいつに……騙されてた、とか?』


彼女も、わたしと同じように。
騙されて、裏切られて参ってる。

でも、別れられないでいる。
あとから割り込んだのは、わたしのほうで。


「待ってるよ。早く行って、海月」
「小夏ちゃん、でも……」
「わたしのこと、騙してたのが悪いなって、気にしてるなら。もういいから」


真っ暗な、ブラックホールみたいな地面を見ながら、わたしは押し寄せてくるひときわ塩っ辛い、鼻をツンとさせる刺激に耐えながら続けた。


「唯ちゃんのことはもう吹っ切れてるし、なに言われても相手にしないし。海月ももう唯ちゃんの〝落としてくれ〟って頼み? そんなの、律儀に守り続けなくていいんだし。気にしないでもう好きにしなよ」


もしわたしを傷つけたことに、すこしでも負い目を感じてるんだったら。もうそんなこと、気にしなくていいから。

わたしが依存しかかってたから、ズルズルとかまってくれてたのかもしんないけど。もう彼女をわたしみたいに傷つけたりしないで。


「小夏……!」


まくし立てるように言いながら歩き出していたわたしは、後ろ髪を引かれるように肩越しに振り向く。

海月の、わたしを呼ぶ声が珍しく、感情的なものだったから。


「唯彦さんになにか言われて、揺れてる?」


そんな訳ない。
唯ちゃんに揺れるなんて、まさか。あり得ないのに。
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