冷徹騎士団長の淑女教育
そういえば、少し前まで窓辺の椅子に腰かけていたアイヴァンが、いつの間にやら見当たらない。クレアは、近くで赤ん坊にミルクを与えているエリスに問いかける。

「アイヴァン様は、どこにいかれたのかしら?」

「先ほど、玄関から出て行きましたよ。庭にベンチがあるので、休んでいるのでは? アイヴァンさんはそこで景色を眺めるのがお好きなので」





玄関の戸を開ければ、青々とした草が広がる庭が夕焼けで朱色に染まっていた。草と滴の混ざり合ったみずみずしい自然の香りが、辺りに満ちている。

玄関前から少し行ったところに、エリスが言っていたように木製のベンチが置かれており、アイヴァンが座っていた。

足を組み、ひじ掛けに肘をついて、物憂げに日の暮れかかった景色に目を凝らしている。




「アイヴァン様、こんなところにいらしたのですね」

クレアは驚かすつもりで、後ろからひょこっとアイヴァンの顔を覗き込んだ。だがアイヴァンの方ではとっくにクレアの気配を察していたようで、しごく落ち着いている。

面白くなくて、クレアは小さく唇を尖らせた。するとアイヴァンが、微かに表情を緩める。

「その顔、子供の頃から変わらないな」

不服だが、アイヴァンが笑ってくれたのは嬉しい。

「隣に座っても、よろしいですか?」

「……ああ」

クレアはアイヴァンから一人分の距離を空け、ちょこんと隣に腰かけた。




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