冷徹騎士団長の淑女教育
ダグラスが何を言っているのか、クレアには分からなかった。ただアイヴァンがクレアを拾ったのは偶然ではなく、意図したものだったことだけを朧げに理解しただけだ。

すると、唐突にダグラスがクレアの左手首をつかんだ。

「やめて!」

這い上がるように恐怖が湧いてきて、クレアは力の限り叫ぶ。だが、ダグラスはしごく落ち着いていた。

「王都からはもう外れています。叫んでも、誰も来ませんよ」

ダグラスが、クレアの左手首に装着された特殊な形状のブレスレットに指先をかける。遠い昔、アイヴァンがクレアにくれたものだ。肌身離さずつけていたそのブレスレットを、クレアは心の支えとして生きてきた。

カチリ、と音を鳴らしながらクレアの手首から外れブレスレットれが、クレアのドレスの膝の上に落ちる。



「ああ、やはり。この醜い痣が紛れもない証拠だ」

クレアの手を乱暴につかみながら、まるで汚物を目にしたかのようにダグラスが嫌悪感を浮き彫りにする。

醜い、という言葉を久々に投げかけられて、クレアの胸がざわめいた。自分なんていない方がいいと本気で思っていた、遠い昔の感覚がさめざめと蘇る。

そんなクレアの挫けそうな心を奮い立たせたのは、子供の頃に投げかけられたアイヴァンの言葉だった。

――『君は美しい』

アイヴァンが優しく触れ、クレアのために作ったスズラン模様のブレスレットで守り続けてくれたこの痣を、醜いとは言わせない。

「離してください」

怯えるばかりだった空気を一変させ、クレアは厳かに声を出す。

そして、クレアの変貌ぶりにダグラスが驚いている隙に彼の掌から自分の手を引き抜き、胸元に抱き込みながらきつくダグラスを睨みつけた。

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