冷徹騎士団長の淑女教育
「クレア……」

脳裏を過ったのは、幼少の頃から今に至るまでの彼女の顔だった。

華開くような笑顔、寂しげな横顔、唇を尖らせ拗ねる様、ふと見せる理知的な眼差し。

少女の面影を残したまま唐突に現れる、ぞくっとするような女の顔。

馬を疾走させながらアイヴァンは目を閉じ、自分だけが知る彼女の素顔を心の中で抱きしめる。

「クレア、愛してる……」

吐き出された呟きは、風にさらわれ彼方に消えた。




その時、アイヴァンは、森の木立の隙間から覗く石の円塔を視界の隅に捉えた。

(あんなところに邸が……?)

手綱を引き、馬を方向転換させる。急速に森の方へと馬を操りはじめたアイヴァンを、背後から必死に追うエリックの気配がした。

木々が鬱蒼と生い茂る森を抜ける。ほとんど人が足を踏み入れることはないのだろう、雑草は生え放題で、不気味なほどに空気も澄んでいた。

だが、アイヴァンは道に残された車輪のあとを見逃さなかった。

雑草を踏みつけるようにして土道に残されたその車輪のあとは、雨風に侵食された様子がほとんどない。

(かなり新しい跡だ……)

騎士団長としての勘が、アイヴァンの気持ちを急き立てる。より一層馬を疾走させたアイヴァンは、やがて木立を抜け蔦に覆われた石造りの邸の前に出た。

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