冷徹騎士団長の淑女教育
「え……?」

クレアは一瞬ドキリとしたものの、すぐに「会っていません」と否定した。

エリックが来るのは、たいてい平日の朝方だ。だから、日曜日に誰かに会っているというわけではない。

心の動揺が伝わらないように、精いっぱいの平常を装ってアイヴァンを見た。

アイヴァンは、そんなクレアに見透かすような視線を注ぐ。

やがてアイヴァンは、一つ呼吸をおくと、

「……自由になりたいか、クレア?」

と改まったように聞いてきた。

突拍子な話の展開に、クレアはしばらくの間キョトンと固まる。そんなクレアの顔を見ずに、瞳を伏せたままアイヴァンは続けた。

「この間、言っていただろう。自由になりたいと」

クレアははっとする。アイヴァンは、二人がぎくしゃくするきっかけになった会話のことを言っているのだ。




クレアは、一瞬戸惑った。自由になりたいのはなりたいが、その台詞を言ったのはいわば言葉のアヤのようなものだった。自分のことを見向きもしないアイヴァンに八つ当たりして、困らせたかっただけだ。

本当のクレアは、自由になることよりもずっと、アイヴァンの傍にいられることを望んでいる。

クレアが言葉に詰まっていると、アイヴァンはいつになく穏やかな口調で言った。

「自由になりたいのは当然のことだ。君も年頃の娘のように、着飾って街を歩きたいだろうし、恋人だって欲しいだろう」

どうして、この人はこうも簡単にクレアを傷つけてしまうのだろう。年長者が子供を諭すようなアイヴァンの口調に、クレアはたまらなく泣きたくなる。それに、未来の恋人の話など、彼の口からは一番聞きたくなかった。
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