冷徹騎士団長の淑女教育
クレアが深く傷ついていることなど全く知らぬ様子で、アイヴァンはポツンと言い放つ。

「……もう少しだけ、待ってくれ」

アイヴァンのその言葉は、妙な重みを孕んで二人の間に落ちた。クレアは、アイヴァンに気づかれぬよう、どうにか息を整える。

(”もう少しだけ”って、どういう意味……?)

もう少ししたらクレアを自由にすると、アイヴァンは暗に言っているのだろうか。一抹の不安が脳裏を過る。

(もしかしたら、アイヴァン様はご結婚を考えておいでなのかしら……)



先日見た、深紅のドレスの美女が真っ先に思い浮かんだ。自分の馬車に乗せている点で、彼女とは親密なことが窺えた。

それに、今年で三十歳のアイヴァンは、結婚適齢期ぎりぎりの年齢だ。格式高い公爵家の嫡男だけに世継ぎを作らないというわけにはいかないし、やっとのことで結婚を決意したと考えるのが妥当なように思う。

結婚となると、クレアはただの邪魔者だろう。娘と呼ぶには大きすぎるし、相手の女性が受け入れてくれるとは思い難い。

膝の上においたクレアの指先が、微かに震えた。
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