冷徹騎士団長の淑女教育
(いやだ。アイヴァン様と、離れたくない)

気づけばクレアは、机の上におざなりにおかれたアイヴァンの手を握っていた。

男らしくて大きいこの手が、クレアは好きだ。苦しいときも、辛いときも、いつもこの無骨な掌のぬくもりに支えられてきた。

「――どうした?」

クレアの急な行動に、冷静沈着なアイヴァンも戸惑っているようだった。

「私は……、」




――あなたのことを、お慕いしています。

そう告げることが出来たなら、どんなに楽だろう。

だがその台詞を言ってしまえば、アイヴァンを困らせることをクレアは分かっていた。

アイヴァンにとって、情けから拾った孤児のクレアは養女のような存在であり、恋愛の対象ではない。クレアの想いに答えられないアイヴァンは、どうすることもできない。無駄に困惑するだけだ。




何を口にすればよいのか分からず、クレアはアイヴァンを見つめたまま手を握ることしかできなかった。やや目を見開いたアイヴァンも、そのまま黙ってクレアを見つめ返す。

だがやがて、アイヴァンは我に返ったように、クレアの掌の中から自分の手を離した。

「クレア、やめろ。男の手に気易く触れるものじゃない」

そして悲しいくらいにいつものように、厳しい口調でクレアを叱る。

「お前は、この国で一番の淑女になるんだ。俺の期待を裏切るな」
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