冷徹騎士団長の淑女教育
『お願い。ずっとそばにいて――』

あの時の、彼女の言葉と眼差しが忘れられない。

必死に自分を求める少女のひたむきな仕草に、自分の中に眠っていた愛欲が湧き立つのを感じた。




アイヴァンは、クロフォード公爵の不貞でできた子供だった。

母は邸に勤める使用人だったと聞いたが、アイヴァンには彼女の記憶がない。アイヴァンを産んですぐに邸から追い出され、間もなくして孤独に亡くなったと聞いた。アイヴァンを育てたのは、母の友人だったレイチェルだ。

当然、正妻である義理の母は、アイヴァンの存在を快く思わなかった。アイヴァンの母親を追放し死に追いやったのも、おそらく彼女の権力によるものだろう。間もなくして彼女にも子供が、つまりアイヴァンの義弟が生まれたが、第一子が嫡男であることは揺るがなかった。

そのため、義母は幼い頃からアイヴァンに辛く当たった。

アイヴァンと義弟の待遇は、目に見えて違った。衣服や持ち物の質から、社交界での扱いまで、義母の嫌がらせは執拗だった。

父親は家庭のことには無頓着で、アイヴァンに対する義母の悪質な態度を知りながら、口を挟もうとはしなかった。

だからアイヴァンは日がな義母の嫌がらせに耐え、剣技に打ち込むことで憂さ晴らしをするようになった。



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