冷徹騎士団長の淑女教育
今更ながら、とんでもない人物と接触してしまったことに気づく。

身なりが良いから、それなりの身分だとは思っていたが、これほどとは思いもよらなかった。大公家の子息が供も連れずに街を歩いているなど、普通は考えられない。

さらには自分のような冴えない娘に声をかけ、塀を超えて会いに来るなど、エリックは相当な変わり者なのだろう。

そこで、レイチェルが顔を曇らせる。

「本来であれば、大公家に王位を引き渡す必要などなかったのですがね……」

「本来? どういうこと?」

クレアが問いかければ、レイチェルは暗い面持ちのまま口を開きかけた。

だがそこで、背後から「クレア様」と声がかかる。



いつの間にか食堂の入り口にベンが立っていて、クレアは心臓が喉から飛び出そうになる。

いったいいつの間に入ったのだろう。相変わらず、気配のない男だ。

「宗教に関する新しい書物を、アイヴァン様より預かっています。本日中に読むようにと言われていました」

ベンにのっそりと差し出された分厚い書物を前に、クレアは真っ青になる。

これを一晩で読めだなど、非情すぎる。アイヴァンの厳しさは、年を重ねても和らぐ兆しがない。
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