冷徹騎士団長の淑女教育
その頃から、アイヴァンがクレアのもとに来る頻度は減っていった。

国王の体調不良の噂はまことしやかに広まっており、隣国が怪しい動きをし始めているらしい。近隣の国は、全て友好国というわけではない。国の混乱に乗じて、ユーリス国を狙うことは充分考えられる。

騎士団長のアイヴァンは、国境の警備に奔走しているようだった。

ときには、一週間近くクレアのもとに来ない日もあった。

来れない日でも、アイヴァンは何らかの手段で必ずベンにクレアの学習指示を知らせていた。

たとえ学習量が膨大でも、クレアはアイヴァンが自分のことを気にかけてくれているのが嬉しかった。





そんな日々が数週間続いた、ある日の夕方のことだった。

部屋でアイヴァンに与えられた統計学の書物を読んでいたクレアは、階下の騒々しさに気づく。

「レイチェル? 何かあったの?」

一階へ降りてみれば、玄関ホールにレイチェルと向かい合うようにして男が立っている。黒髪に口ひげを蓄えた初老の男だった。クレアを見るなり深々とお辞儀をするので、クレアも慌ててドレスのスカートを摘まんで礼を返した。

「クレア様。クロフォード家の本家から迎えがきまして……。アイヴァン様が、今宵のお城での舞踏会にあなたをお連れしたいとおっしゃられているそうです」

レイチェルは、うきうきとした口調で言った。玄関脇の窓からは、門前に停められたクロフォード家の紋章が刻まれた馬車が見える。思わぬ話に、クレアの心は大きく弾んだ。

「まあ、本当なの……?」

アイヴァンと連れだって城の舞踏会に行くことを、クレアは少女の頃から何度も夢見ていた。その夢が、まさかこんな唐突に叶うなどとは思ってもいなかった。多忙なアイヴァンとは三日も会っていない状況なので、喜びもひとしおだ。

表情を輝かせるクレアの傍に寄り「ええ、ええ」とレイチェルが嬉しそうに同調する。

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