冷徹騎士団長の淑女教育
「いよいよ、クレア様も社交界デビューなさる日が訪れたのですね。アイヴァン様はクレア様を公の場にはお連れにならないので、心配していたのですよ。このままではクレア様がお可哀そうだと、この間文句を言ってみたのがきいたのかもしれません。とにかく、さっそく支度にとりかかりましょう!」

それからのレイチェルは、いつもの何倍も機敏に動いてクレアの身支度をした。プラチナブロンドの髪を細かく編み込み、高く結い上げ、真珠と花を散らす。

ドレスは、クレアの希望で薄紫色の流行りのデザインのものを着つけてくれた。以前に、アイヴァンに似合わないとさんざんなじられたものだ。着てしまえばドレスの美しさを認めてくれるかもしれないと、思い立ってのことだった。

それにアイヴァンは邸の中で着るなとは言ったが、外で着てはいけないとは言っていない。

ふんわりと広がるパニエが、クレアの気持ちを更に盛り上げる。シルク素材のグローブに、真珠のネックレスにイヤリング。



「まあ、クレア様。なんて美しいのかしら……!」

クレアが支度を終えた頃には、日はすでに暮れかかっていた。レイチェルは疲れを微塵も感じさせない笑顔で、着飾ったクレアを幾度も眺めまわした。

「レイチェル、言い過ぎよ」

レイチェルは、言葉巧みにクレアの気持ちを奮い立たせてくれようとしているのだろう。城の舞踏会に赴くような淑女たちはきっと美女揃いだから、クレアが怖気づかないように。レイチェルの優しさが、身に染みる。
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