君等の遺した最後の手紙は。(仮)

「未侑大丈夫?」
「う、うん一応…」
徒歩10分程度の駅につき、電車に乗り込んだというのにまだ血液が止まらない。サラサラと無限にでも出てきそうなその感覚にほんの少しの快感を覚える。
私とお姉ちゃんの頬にはまるでお揃いのように青黒い痣の上に引っ掻き傷が乗っている。
強いて幸運だったのは、その爪が目に入らなかったこと。目が傷ついていたら大変なことになっていた。

「ねえお姉ちゃん…昨日何があったの?」
今朝話していた続きに戻る。
「今朝と同じ感じよ…昨日は初優(うゆ)も帰って来なかったから余計機嫌が悪かったみたい…」
「うわ…そうだったんだ…」
初優は母親の名前。優しいなんて文字が入ってるくせに全然優しくなんかない。完全な名前負け。だからこそ私は彼女の名前が大嫌いだ。
最近は初優も叩かれることに恐怖をおぼえたのか全然江川家に帰ってこなくなった。すごくいらつく。

私たちにほかの行き場は無いのに。

「…まぁこんなことも慣れっこだよ!」
いつでも明るい方へ捉えるお姉ちゃん。私の憧れ。
「だけど…せっかく綺麗なお肌なのに…」
そっとお姉ちゃんに手を伸ばし、親指で字の周りを撫でた。
「未侑…もぅ かわいいっ」
電車の中だというのも関わらず、ぎゅっと抱きしめられる。
「お姉ちゃんっ電車の中だって!」
恥ずかしがったような声を出すけど本当は嬉しい。
誰かに殴られるんじゃなくて、誰かに抱きしめられた方が当たり前に嬉しいから。
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