君等の遺した最後の手紙は。(仮)

ほんとのこと

「ちょっとみゆう?!どうしたの!??」
やっぱり1番に気づいたのは晴華ちゃん。DVを受けて1番厄介なのがこれだ。外傷の理由をうまくはぐらかすこと。

「ん〜とね、こけた」
努めて明るく笑ってみせる。言い訳はちゃんと学校に着く前に考えていた。
「なんでそんなとこを怪我するの…」
晴華ちゃんのお母さん気質が出ている。
「え!!大丈夫?病み上がりにコケたって熱あるんじゃない?」
「そこは大丈夫だから…多分…」
苦笑をまぜていつも通りを演じ抜く。イツメン的な6人が私の席の近くに集まる。大事にはしたくない。
「ちょっと手当てしてもらいに保健室行ってこよっかな…梨雛ちゃん、もし遅れたら江川がコケて顔怪我したので保健室いってますって伝えてくれない?」
「あ、うん!いいよー!」
「ありがと!」
「ハルも着いてく!」
詮索されないといいんだけど…
「じゃあ伝えとくよ!」
「ありがと〜!!」
まぁ1人で行ったことのない保健室に行くよりはいい気がする。
極力目立たぬよう、右手で傷を隠しながら保健室に向かうことにした。

「みゆう、ごめんね…体育会の実行委員…」
あぁ忘れていた。そうだ、私は実行委員に抜擢されてしまったのだ。
「仕方ないよ〜、はるかちゃんが悪いわけじゃないもん!」
明るく、明るく。
心の中で自分に言い聞かせる。
「ごめんね、ありがと…」
「うん!全然大丈夫だよ!あ、そういえば男子って誰なの?」
よく考えたら男女ペアなのに誰がペアなのかすっかり聞くのを忘れていた。
「あ、えっと…それが…林田くん、林田希翔くん。」
「あぁ、あの人か…」
あのフォームの綺麗な男の子。
「みゆう、大丈夫?林田くんすごく冷たいって噂なんだけど…」
なのに何故選ばれたのだろうか。
「あっ、あのねっ、男子だれにも投票なくて、くじになったの!だから…林田くんが選ばれちゃって…」
そう心を読み取ったかのようにぱぱっと説明してくれる。
「なるほど…まぁ部活も一緒だし大丈夫だよ〜」
ほんとはすごく不安。

「あっ、保健室ここだよ、失礼しまーす…」
「失礼します…」
扉を開けた瞬間、すんと香る消毒されすぎた空気の匂い。廊下や教室とは違う独特の匂い。
「あら、どうしたの…って聞くまでもないわね…」
童顔だけどきちんと整った顔に苦笑が浮かぶ。
「ちょ…ちょっとコケちゃって…」
「あらまぁ…手当しましょ…」
私の傷を先生がガン見する。陽に透けて綺麗に発色している先生の瞳に目を奪われる。
「・・・えっと…富田さん、だったかしら、先に教室に戻ってて貰える?少し手当てに時間かかりそうだから、あと4分しかないし。」

先生は傷を見ただけで分かったんだ。コケたってことが嘘だって。

「あっほんとだ…分かりました。じゃあみゆう、後でね」
眉を少し下げて笑った晴華ちゃんの表情はなんだか悲しそうだった。
< 26 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop