君等の遺した最後の手紙は。(仮)

負けたくない


「二人とも話してくれてありがとね。
でも…これからどうしよっか…うちに来る??」

先生の家に避難できるならしたいくらいだが、避難した場合家に帰らないから真人がまたキレる。それから初優がまた厄介になる。

「親が不機嫌になっちゃう…」
お姉ちゃんが私の気持ちを代弁してくれるように言う。
「しかも未風も未侑も殴られるだけじゃなくて、以前はその…真人の性的欲求…?を満たす道具としても使われてるんですよね…避妊具なしで。」

そう。最近は真人が妊娠を怖がってしなくなったが、お姉ちゃんは小5まで。私は中2までされていた。やめた理由は生理が始まったこと。

「それはまた最低最悪なお父さんで…」
先生の溜息。
「ただ…愛されなくてもいいから…普通の生活がしたかった…」
先生の本音につられて思わず心の声が零れる。
先生が更にぐっと悲しげな色を纏う。

「美依せんせっ…これから私たち…どうなっちゃうのかな…」

そう言えば保健の先生の名前、村田 美依先生だったな、なんてどうでもいいことを思い出す。幼さの残る見た目から、みぃちゃん先生とか美依先生とか呼ばれている。

「不安…だよね…」
「ネットとかで私たちみたいに虐待とかされてる人が多いってことは知ってるの。だけど未侑以外、身の回りにそんな人、居ないから。ニュースでもあがるのは『虐待死』だから自分の行く末も、未侑の行く末も怖くて…。」

お姉ちゃん…そんなこと思ってたんだ…。

「そっか…そうだったんだね…ごめんね、気づいてあげられなくて。こんな話、話すに話せないよね…」
先生の顔が翳り、物憂げな表情に見える。
「実は私、ずっとあなたのこと気にはしていたの。ん、今更言っても遅いんだけどね、体育会期間のとき、半袖になるじゃない、そのとき…すごい数の青痣があったから…もしかしてっては思ってたんだけど…。
今日の傷見て確信したよ。もっとちゃんと早く話を聞いとくべきだったって…。」
先生がお姉ちゃんの頭をそっと撫でた。
「ぅぅ…」
お姉ちゃんの目から雫が零れた。

そうだ。
年齢的にも背丈的にもお姉ちゃんの頭を撫でる人は居ない。
落ちてくるのはいつも拳ばかり。
かく言う私はいつも撫でられる側で、何も考えず、お姉ちゃんの手中の温度にとろけていただけだった。

ーーお姉ちゃんは一体どんな思いで私の頭を撫でていたのだろうか…

先生がぎゅっとお姉ちゃんを抱きとめる。
< 29 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop