君等の遺した最後の手紙は。(仮)
「…せんせ…未風たち、負けたくない。あんなくそジジイ、くそババアに…絶対負けたくない…」

激しく同意し、何度も頷く。その拍子に目が潤む。

「そうだね…。でもね、逃げるのも…大事なことなのよ?死んじゃったりしたら一貫の終わりなんだから…」
気づけば先生の目からも涙が溢れていた。

「やっぱり…そうだね、2人の頬の怪我が治るまでは先生のうちに来ない?」
「でも…そういうのって大丈夫なんですか…?それから先生の家にも迷惑じゃ…」
「だいじょうぶ。先生の役目はあなた達を助けること。だから家においで。」

ーーあぁ、めちゃくちゃいい先生に出会った…

そう直感的に感じた。高校の先生は公務員ではないから、本当に先生になりたい人が集まるのだろう。

「お姉ちゃん…どうする?」
「行く…?」
私はよく考えた。
今、親と縁を切るのは不可能だ。学費の問題や今後の関係、様々なことを考慮した上でこれからも過ごしていかなければならない。

この問題からは…逃げられない。
だから。
「未侑は…家に帰る。真人も目立つ所に傷を付けたからしばらくは大丈夫なはず。しかも今は親から逃げられない。」

お姉ちゃんが視点を迷わせ、悩んでいる。
時計を見ると、あと5分で1時間目が終わる時間になっていた。
声を出す前の「すっ」と言う音が聞こえ、時計から、お姉ちゃんにピントを合わせる。

「未風も、未侑と戦う。大人になれば縁切ろうと自由だもん、だから、耐えて、大学行って自立して…未侑と一緒に出ていく。2人でずっと生きていく。」
「お姉ちゃん…」
普段はほんわか、のんびりしているお姉ちゃんの強い発言にまた感涙しそうになる。
「虐待死とか、自殺しそうなくらいのときはちゃんと先生に言う。それは約束します。だから…あと2、3年の辛抱。今の生活からリタイアなんてしたくない。耐え抜いて、強い人間になる。どんなことにも耐えれる大人になる。」

お姉ちゃんの大人な言葉に息を呑んだ。お姉ちゃんがそんな風に考えていたなんて全然知らなかった。心がきゅっと締まってじんとする。

お姉ちゃんは、私が思っているよりずっと大人だったんだ。
たった1つ年齢が違うだけでこんなにも違うんだって驚愕する。

「そっか…先生は親から引き離してあげたい気持ちでいっぱいだけど強要は出来ないから見守るだけね…。辛いことがあったらいつでもここに来て言って。話聞くし2人のことを絶対守るから。」

「先生…」
タイミングを見計らったかのようにチャイムが3人だけの保健室に鳴り響く。

「…さぁっ、あと10分で2時間目が始まるわ。ごめんね、貴重な1時間潰しちゃって。まず大学に行くためには勉強、ねっ」

さっきまで涙を流していた人とは思えない程お茶目な笑顔で私たちを見送る。
がらりと扉を開け、ぺこりとお辞儀をし、姉妹揃って保健室を後にした。



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