約束~悲しみの先にある景色~
車の窓やドアをぺちぺちと叩きながら泣く私を見て、


「一旦路肩に停めますね…、どうしたんでしょうか」


山口さんはそう言って、車のスピードを落とした。


けれどもちろん、私には何も聞こえていないわけで。


しかもその時、不意に肩に置かれた手に力が加わったから。


(触らないでっっ!)


もう、怖過ぎて怖過ぎて。


私は、肩に置かれたままのトユンさんの手を勢いよく引き剥がした。


自分の肩から汚らわしい感触が消えてもなお、私はフラッシュバックを起こしたままで。


「やだ、やだぁ…、」


クローゼットの中は暗くて、何もかもが怖くて、気持ち悪くて、いっその事死にたくて。


でも死ねなくて、やり残した事を何とかして見つけたくて、生きていたくて。




誰かに、助けを求めたくて。




その時。


「もしかして瀬奈ちゃん、閉所恐怖症だったりする?ごめん山ちゃん、窓開けてあげて」


遥か遠くから、男の人の声が聞こえた。


瞬間、マフラーが外れた頬を撫でる冷たい風の感覚がした。


(……、)


クローゼットの中に風が吹くなんて、本当は有り得ない事。


私の過去の記憶と現在の触覚が合わさり、


(……あれ、)


ようやく、私は違和感に気が付いた。
< 192 / 329 >

この作品をシェア

pagetop