約束~悲しみの先にある景色~
(!)


その瞬間、必死に引っ込めたはずの涙がまたもや溢れ出した。


「…ゃ……っ、」


当たり前の様に付けたシートベルトが、いつか私を机に縛り付けていた結束バンドや縄の様に感じられて。


「あ、………!」


(やだ、やだ!)


早く逃げなければ、お父さんからまた罰を受ける。


逃げた方が罰が酷くなる事なんて分かりきっていても、それでも。


未来を考えて行動しないより、今のこの瞬間を必死に生き延びる事が重要で。


そもそも、私に未来を考える余裕は無い。




「え、あ、瀬奈様…?」


バックミラー越しに、怪訝そうに私の名前を呼ぶ山口さんの姿は、私の目に映らず。


「やだあ、っ!」


先程よりも強いパニックを起こした私は、シートベルトの取り方を忘れ、ただただ力任せに引っ張った。


ここが高級車の中だなんて、綺麗さっぱり忘れて。


(ここから出して!)


車の中が、あのクローゼットの中の様に錯覚してしまう。


外側から鍵を掛けられ、何時間も暗くて暑い箱の中に居たせいで何度も戻したし漏らしたし、季節に関わらず熱中症や脱水症状にもなりかけた。


考えるだけで、胃がムカムカする。


「出して、……!」
< 191 / 329 >

この作品をシェア

pagetop