約束~悲しみの先にある景色~
バリンッ……


私の足元に落ちたコップは割れ、中に入っていたオレンジジュースは、床に叩きつけられた衝撃で私の周りに小さな水溜まりを作っていた。


(どうしよう、お父さんに…!)


きっと、オレンジジュースはお父さんの足にもかかっただろう。


(怒られる)


今まで、お父さんに怒られるなんて考えた事もなかったのに。


それなのに、そんな風に確信してしまう私の心は、恐怖で埋め尽くされていた。



「……ふざけんなよ」


やはり、お父さんは先程よりも怒っていた。


「っ、ごめんなさ……」


首筋の包丁に力がこもった気がして、余りの恐怖に耐えられなくなった私は、大粒の涙を零し始めた。


「おら、歩けよ!」


「っ……う……」


私の履いていた真っ白なお気に入りの靴下は、オレンジジュースのせいでオレンジ色に染まっていた。


しかも、ガラスの破片で切ってしまったのか、靴下の1部分が赤く染まっている所もあった。


(痛いっ……)


それでも、私は歩みを進めた。


ガラスを避けているはずなのに、私の両足の靴下の色は、オレンジ色と赤色の斑に早変わりしていて。


どんなに足が痛くても、歩みを止められない。


歩く度にガラスが刺さり、時には食い込んでくるのに。


足にかける重心をこまめに変えるしか、きちんと歩く方法は無かった。
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