約束~悲しみの先にある景色~
そうして、何とかお父さんの分のお茶をテーブルに置いたその瞬間。


「お前本当にふざけんなよ、俺の事舐めてんの?」


豹変したお父さんからの、罵声。


「ううんっ…舐めて、なっ……」


大好きだったのに。


お父さんも、前までは、


『瀬奈は、お父さんの目に入れても痛くないよ!何でだと思う?それはね、お父さんが瀬奈の事大好きだからだよ!』


と、溢れんばかりの笑顔で言ってくれたのに。


今では、抱き着いてキスが出来る程好きだったお父さんの方へ、振り向く事すら出来ない。


それなのに。




「お前みたいな使えねえ奴は、刺してやろうか?」




どうして。


「や、だぁ…、何でっ、…!?」


私が恐怖と闘いながら、必死に謝っているのに。


お父さんは、聞き耳を持ってくれない。


どうして、“刺す”なんて言ってくるのだろう。


そして、私が死ぬ気で置いたコップを、お父さんは勢い良く掴んだ。


その衝撃で中のお茶が揺れて零れ、私の頭に少しかかる。


「ううっ……」


お父さんが少なくなったお茶を勢いに任せて飲む音に、またもや涙が零れる私。


髪の毛を滴るお茶は、私の肩を濡らしていって。


ポタリポタリと、その水滴は包丁にも垂れていく。


「おと、さ……、もうこれ、離してっ……」
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