約束~悲しみの先にある景色~
これはきっと、何かの悪い夢だから。


(だってだって、お父さんがこんな事、するわけないもん……)


未だに、そう自分に言い聞かせていたけれど。


「瀬奈」


彼にそう呼ばれて、また新たに涙が零れた。


「お前は俺が優しい父親だと思ってただろ。…でも、実は違うんだよな、可哀想に」


ふっと、今までの乱暴な口調から打って変わって、お父さんは静かにそう行ってきた。


「お父さ……?」


けれど、私がやはり怖いからとお父さんの方を向かずにそう呟くと。


「おいこっち向けよ!壁向きやがって、お前は今誰と喋ってんだよ!」


すぐ様、お父さんの罵声が飛んだ。


私の少しの行動が、彼の逆鱗にまた触れてしまった。


「っ…お父さん……うぅっ…」


(怖い……もう止めよう…?)


「いちいち俺がむかつく様な態度を取るんじゃねえよ!」


1度は収まってくれた彼の怒りを蘇らせたのは、私。


だから私は、肩に当てられた包丁に気をつけながら恐る恐る振り向いて、そして。


「ひっ……!」


お父さんの身の毛もよだつ様な怖い怖い笑顔に、一瞬涙も引っ込み、息までもを飲んだ。


(どうしたの、…?)


「おら謝れよ!早くっ!いつも迷惑ばっかりかけやがって!」


「うぅっ……っ、…」
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