約束~悲しみの先にある景色~
そのせいで私がバランスを崩し、床に手をついてもなお、彼はしゃがんで私と同じ目線になり包丁に力を込め続けている。


「止めてえええっっ!やだああぁっ!」


私は尻もちを着いたまま、必死で後退を続けた。


彼の両目には、恐怖の表情をたたえた私がはっきりと映っている。


(死ぬの!?死にたくない!)


まだ小学1年生の私にとって、“死”という単語はいまいちピンと来ない。


けれど、死ぬという事は怖くて、皆が泣いてしまうという事は道徳の授業のおかげで少し知っていたから。


包丁で切られると、痛いという事も。


(やだああぁっ!お父さん止めてえぇっ!)


だから私は固く目を瞑り、無我夢中で両手を顔の前に当てた。


(助けてぇぇっ!)


そう、強く願いながら。
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