約束~悲しみの先にある景色~
けれど。


お父さんの言葉には、続きがあった。


「お前のその目を見てると、」


突然、私は包丁の突き付けられていない方の肩を掴まれ、お父さんの方に引き寄せられた。


「やっ、お父さん…!?」


「お前のその目を見てると、物凄く、イライラしてくる」


そう言いながら、にやりと不敵な笑みを浮かべた彼。


その笑みは、先程の怖い笑顔と匹敵する程に恐ろしくて、怖くて。


お父さんのその目は、まるで獲物を狙っている猛獣の様にぎらぎらと輝いていた。


「……っ、何するの…?」


涙を流しながら、私は必死にお父さんの胸を押して彼から遠ざかろうとする。


そして不意に、肩に置かれた包丁に力がこもった気がした。


「俺を煽ってんだよ、お前の目は!」


(あっ……!)


そこでようやく、私はお父さんが私に何をしようとしているのかはっきりと悟った。


彼の握った包丁は、紛れもなく私の首に向かって動いている。


このままだと、明らかに、私は。


(刺されて、殺される)


「い、嫌っ……やだぁ、止めてえぇっ!」


一瞬で鳥肌が立ち、自分が死ぬかもしれないという言葉では伝え切れない恐怖に目を見開いた私は、必死で両手を振り回した。
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