迷子のシンデレラ
「智美ちゃん。この後、飲みに行こうよ」
会社を出てひとけのない道。
わざわざそこを見計らって声をかけられた。
ナンパしてくる運転手の中ではタチの悪い人だ。
いくら断っても強引で。
シングルだからと上から目線でモノを言ってくるいけ好かない人。
他の人はどこか冗談で言っているのが分かるのに、この人は冗談では済まなそうな嫌な感じがするのだ。
にじり寄ってくる彼から距離を取る。
「俺なら子どもも面倒見てやれるしさ。
独り身じゃ寂しいだろう?
俺が慰めてやるよ」
こちらが迷惑だと彼へは強い態度で示しているのに一切汲み取ってくれない。
それどころか、俺に誘われて嬉しいだろう? と勘違いしていそうな思考が生理的に受け付けない。
あんたみたいな野蛮人、こっちから願い下げよ!
そう啖呵を切ってやりたいのに、小さな会社に小さなコミュニティ。
騒ぎを起こして居づらくなるのは困ってしまう。
ここ以外に自分の居場所はないのだから。
「なぁ。智美ちゃん」
「ヤダ。やめてください」
腕をつかまれて反吐が出そうだ。