迷子のシンデレラ

 振り払おうとした腕が急に軽くなる。

「悪いけど僕の方が彼女に用があるんだ」

「イテッ」

 手を捻り上げられ、怯んだ男がその人物を見上げた。
 見上げた男は目を剥いて後退りをしている。

 智美もその人物を視界捉えて目を丸くした。
 凄まじい形相で睨んでいるのは……。

 葉山周平。

「んだよ、お、おとといきやがれ」

 よく分からない負け惜しみを口走りながら絡んでいた運転手は逃げていった。

 図体ばかり大きくて度胸も何もない人だったみたいだ。
 手を捻り上げられ、睨まれただけで尻尾を巻いて退散したのだから。

 睨まれただけ……。
 腕組みをして立っている葉山をチラリと見て背筋が凍る思いがした。

 逃げた運転手でなくても逃げ出すかもしれない。
 今にも人を殺めそうな凄味のある雰囲気に智美は喉を鳴らした。

「君も、来てくれるよね?」

 表情を緩めないまま言われてますます固くなる。

「悪いけど怒ってるんだ。
 どうしてか、君にも分かるはずだ」

 そう言って彼は智美の腕をつかんだ。

 助けられたのか窮地に追いこまれたのか、今となっては分からなくなってしまった。
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